Internet Vision Meeting(iVM) 2015年度開催記録


過去の開催記録    2009&2010年度(1-11) 2011年度(12-22) 2012年度(23-31) 2013年度(32-41) 2014年度(42-50)


2015年度開催

第60回:2016年3月15日(木)18:00〜19:30 清水求(千葉大学融合科学研究科)
連続フラッシュ抑制に対する刺激提示眼の効果

コントラストが高く連続的に変化する刺激が片目に提示されると、他眼の刺激が意識に上らなくなる(連続フラッシュ抑制;CFS)。本研究では、CFSで強い抑制が生じるメカニズムについて、刺激を提示する眼を操作することで検討した。抑制刺激は5Hzでカウンターフェーズ・フリッカーするガボールパッチ(コントラスト100%)であった。それを一方の眼に提示して優勢が確立された後に、検査刺激(ガボールパッチ、コントラスト40%)を他眼または同眼の同じ網膜位置に提示し、これが検出されるまでの時間を計測した。提示眼の条件として、抑制刺激が左眼、検査刺激が右眼というように特定の眼に提示され続ける異眼条件、抑制刺激と検査刺激がそれぞれ異なる眼に提示されるが、提示眼が1秒に1回の頻度で入れ替わるスワップ条件、同一の眼に重ねて提示される同眼条件を設けた。実験の結果、スワップ条件での検出時間は異眼条件と比較すると非常に短くなり、同眼条件と同程度であったことから、刺激を単に異眼に提示するだけでは十分な抑制が生じないことが示された。さらに、抑制刺激の提示方法は同一のまま検査刺激の提示時間を短く(1秒)することで、検査刺激の提示眼は切り替わらない条件における検出率を測定した。この場合、異眼条件とスワップ条件で検出率に差は見られず、どちらの条件でも抑制が生じることが示された。以上のことから、CFSを用いて長時間に及ぶ持続的な抑制効果を生じさせるためには、抑制刺激を同じ目に提示し続けることが重要であると示唆される。

第59回:2016年2月24日(木)18:00〜19:30 大塚聡子(埼玉工業大学心理学科)
潜在的な聴覚情報の処理にもとづく聴視覚間の相互作用

潜在的な知覚情報処理を示す現象の1つである閾下単純接触効果は、おもに視覚様相において検討されてきた。私たちは聴覚様相でこの現象を確認するために、まず両耳分離法と追唱課題とを用いた(実験1a)。文章を読みあげた音声(追唱刺激)と、1桁数字を読みあげた音声(旧刺激)とを合成した刺激を被験者に提示した。その後、旧刺激と、それに類似した音声(新刺激)とを対提示し、選好判断と再認判断とを行った。その結果、再認判断における旧刺激の選択率は偶然水準、選好判断では偶然水準よりも有意に高く、単純接触効果を確認した。両耳同刺激聴でも同効果を確認したが(実験1b)、持続的注意課題を採用した場合には効果は有意傾向だった(実験1c)。この手法を使って聴視覚間相互作用の確認を試みた。現在のところ、刺激の空間的位置(左と右)や空間的移動方向(左右方向)についての聴視覚間単純接触効果は確認できていない(実験2ab)。一方、短発刺激の出現回数についての聴視覚間単純接触効果は、出現回数が少ない場合についてのみ確認することができた(実験3ab)。

第58回:2016年1月28日(木)18:00〜19:30 木原健(鹿児島大学大学院理工学研究科)
意図的動作による視覚刺激の呈示と注意の促進

ニュース番組を見るためにテレビのリモコンボタンを押すなど、目的 の視覚情報を得るために我々は能動的に環境に働きかけている。一方、他人によ って突然テレビのチャネルが変えられるなど、自分の意図とは無関係に視覚情報 が変化する場合もある。このように、視覚情報が意図的な動作によって出現した 場合と、意図せず出現した場合で、視覚的注意の働きが異なり視認性が変化する のだろうか?この問題を検討するため、高速逐次視覚呈示(rapid serial visual presentation; RSVP)を用いて実験を行った。その結果、意図的動作に よって呈示された視覚刺激は、そうでない場合より視認性が高かった。したがっ て、意図的動作によって注意が一時的に促進されることが示された。また、課題 遂行中の瞳孔径の変化を測定することで、青斑核-ノルアドレナリン系が意図的 動作による一過性の注意促進に関与していることも示された。

第57回:2015年12月17日(木)18:00〜19:30 松本 知久(東京工業大学大学院総合理工学研究科)
画像の輝度分布統計量と金色知覚の関係

金色はある色度範囲の光沢のある表面で知覚されるが,どのような画 像特徴が金色知覚の要因であるかは十分明らかではない.本研究では,金色知覚 の要因を明らかにすることを目指し,金色知覚と光沢知覚と金属感知覚の関係, および画像の輝度分布のどの統計量(平均,分散,歪度,尖度)が金色,金属感 知覚に関係しているかを調べた.その結果,形状にかかわらず金色知覚は金属感 知覚と強く相関することが示された.これは金色知覚の要因と金属感知覚の要因 が類似していることを示す.金色,光沢,金属感知覚は,画像の輝度分布の標準 偏差と最も強い相関を示した.さらに標準偏差のみを変化させた刺激を用いて, 金色,光沢,金属感知覚が標準偏差に依存して変化することが確かめられた.こ れらの結果は輝度分布の標準偏差が金色,金属感知覚を決める決定要因の一つで あることを示唆する.

第56回:2015年11月19日(木)18:00〜19:30 齋藤五大(東北大学大学院文学研究科)
双安定的な視覚運動知覚を変容させる手の自己受容感覚―通過・反発刺激を用いた検討―

単一の運動から二通りの知覚が生じる双安定性的なstream/bounce(通過・反発)刺激は,多感覚情報処理を検討する手段の一つとして用いられている。この刺激を呈示すると,人は通過と反発のうち通過事象の知覚を優位に報告する。本研究では,通過・反発刺激を用いて,手の向きや位置に関する情報が通過・反発知覚に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。実験の結果,参加者は運動刺激の遭遇点の真下で両手を合わせた姿勢時にのみ,他の手の向きの条件に比べて有意に反発知覚の増加を報告した(実験1)。次に,この効果が手の視覚情報のみで生起するかを検討するため,ラバーハンドを用いた結果,ラバーハンドの向きはその知覚に影響を及ぼさないことが示された(実験2)。一方,参加者の手が布で覆われ見えない条件では実験1と同様の効果が示された(実験3)。さらに,この効果は,手を遭遇点真下に置いた時のみ生じることを確認した(実験4)。これらの結果は,参加者自身の手の向きや位置に依存した自己受容感覚情報が曖昧な視知覚を補完し,反発の事象を促進していることを示唆する。

第55回:2015年10月15日(木)18:00〜19:30 古賀一男(京都ノートルダム女子大学)
狙撃手が息をつめて銃の引き金を引くときに眼球の律動的な運動が発現する

Spatio-temporalに精度の高い眼球運動の記録を求める試みは技術の進歩と手を携えて実現されてきた歴史がある.しかしながら市場で入手できる測定機器は極めて高価であるにもかかわらず研究者の要求を満足させるのに充分な精度があるとはいえない歴史が続いてきたことも事実である.本研究では,そのような隘路を研究室の中で開発された高倍率光学系を用いた超高精度デジタル計測手法による記録で得られた中に 1Hz, 8-10Hzにピークを持つ律動的眼球運動が記録された例を紹介する.この律動的眼球運動は人間の心肺活動と同期していることは想像に難くないが,その原因がバルサルバ・マヌーバに起因する交感神経系の賦活によって生じることを狙撃手の訓練教則の例を用いて説明する試みを紹介する.
(本研究の一部は京都ノートルダム女子大学の学術助成を受け2013年8月にスエーデン・Lund大学で行われた第17回ヨーロッパ眼球運動学会シンポジウムにおいて発表された)

第54回:2015年9月24日(木)18:00〜19:30 玉田 靖明(北九州市立大学)
運動視差と大きさ手がかりによって知覚される奥行き

運動視差と大きさ手がかりの相互作用について検討するために,運動視差,大きさ手がかり,あるいは,その両方を与えたときに知覚される奥行き量を測定した.刺激として,320個の白色円盤を仮想的な三次元空間内のランダムな位置に呈示した.「運動視差のみ」の条件では,被験者は左右に動きながら単眼で刺激を観察した.被験者の観察位置に応じてモニター上での円盤の位置を変化させた.「大きさ手がかりのみ」の条件では,被験者は静止した状態で刺激を観察した.それぞれの円盤の距離に応じてモニター上での円盤の大きさを変化させた.「両方あり」の条件では2つの手がかりを同時に与えた.「運動視差のみ」と「大きさ手がかりのみ」の条件では大きな奥行きは知覚されなかった.「両方あり」の条件では,運動視差と大きさ手がかりが示す奥行きが一致する場合には,比較的大きな奥行きが知覚された.2つの手がかりが反対方向の奥行きを示す場合には,知覚される奥行き方向は大きさ手がかりによって決定され,知覚される奥行き量には個人差がみられた.以上の結果は,運動視差と大きさ手がかりによる奥行き情報が非線形な様式で統合されていること,その中で大きさ手がかりによる奥行き方向の情報が重要な役割を果たしていることを示唆している.

第53回:2015年7月23日(木)18:00〜19:30 武藤拓之(大阪大学大学院人間科学研究科)
空間的視点取得における身体移動イメージの役割

空間的視点取得とは,自分の視点とは異なる視点からの見え方を想像する空間認知過程である (e.g., 三つ山課題)。Kessler & Thomson (2010) は,空間的視点取得の際に,取得したい視点の位置まで自分の身体を移動させるイメージが使われていることを示唆している。本研究はこの示唆に基づき,右足・左足 (実験1) と右手・左手 (実験2) を前に出す動作によって空間的視点取得の成績が変化するかどうかを検証した。実験の結果,動作が想像上の移動方向と一致した時に,一致しない時よりも反応時間が短縮した。一方,移動とは無関係な指の動作ではこのような一致性の効果は検出されなかった (実験3)。これらの結果は,空間的視点取得が移動動作のプランニングと処理を共有している可能性を示唆している。また,手と足の反応時間を比較したところ,単純な反応では手の反応が足よりも速いのに対し,空間的視点取得の際には足の反応が手よりも一貫して速くなることが分かった。これは,歩行の基盤である足が手よりも移動とより直接的な関係を持つことに由来すると考えられる。

第52回:2015年6月18日(木)18:00〜19:30 郷原皓彦(九州大学大学院人間環境学府)
オノマトペが交差・反発知覚を決定づける―呈示時間差に着目した検討―

オノマトペ(擬音語・擬態語)の認知が視覚的運動知覚に及ぼす影響は解明されておらず,その影響はオノマトペ−運動間の時差に基づく情報統合の可否により変わる可能性がある。本研究では交差・反発刺激を用いて,視覚呈示(実験1)あるいは聴覚呈示(実験2)されたオノマトペが知覚的双安定性を持つ視覚運動知覚に及ぼす影響を解明し,オノマトペの呈示時間差により影響が異なるかを検討することを目的とした。オノマトペ刺激として,ガツッ/シュッ/へユッの3条件,呈示時間差として,パッチの完全に重なる500ms前/100ms前/100ms後/500ms後の4条件を設定した。実験の結果,視覚・聴覚呈示のいずれにおいても「シュッ」条件では交差の知覚割合が有意に高く,「ガツッ」条件では反発の知覚割合が有意に高かった。また,「ガツッ」条件の影響は100ms前条件で最も強くなった。この結果から,オノマトペが視覚運動刺激に影響を与え,その影響は時間的近接に基づく情報統合により決まることが示唆される。

第51回:2015年5月28日(木)18:00〜19:30 馬場美香(大阪大学大学院生命機能研究科)
初期視覚野視差選択性細胞における、異なる空間周波数チャンネルの統合

我々の脳内の視覚システムが3次元的な奥行き推定を行うために重要な手がかりの一つとして、網膜画像の左右間での小さなずれ、「両眼視差」がある。両眼視差の検出は初期視覚野とよばれる領野から始まるが、この領野の神経細胞はそれぞれが特定の空間周波数に選択性を持ち、異なる空間周波数情報は別々のチャンネルで処理されている。しかし、一般に自然な外界からの視覚入力は様々な空間周波数成分を幅広く含んでおり、両眼視差による左右間での網膜像の位置ずれは、像に含まれる空間周波数成分すべてにおける同じ大きさの位置ずれとして特徴付けられる。従ってより正確に信頼性高く機能するために、異なる周波数チャンネルからの情報統合が以降の処理として必要であると考えられる。このような情報の統合が初期視覚野の両眼視差選択性細胞で起こっているかどうかを調べるため、麻酔不動化したネコ17野において両眼周波数組み合わせ空間における細胞の両眼性応答を計測した。得られた74個の細胞について両眼周波数相互作用マップを解析した結果、多くの細胞において、異なる空間周波数チャンネル統合が起きている場合と合致するデータが得られた。またそれらの細胞について周波数バンド別に最適視差を比較した結果、ほとんどの細胞でほぼ同一の視差にピークを示した。この結果から、より正確な両眼視差検出を可能にするような、空間周波数領域での情報統合が初期視覚野から始まっている可能性が示唆される。


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