Internet Vision Meeting(iVM) 2009年度&2010年度開催記録


2010年度開催

第11回: 2011年2月24日(木)17:00〜19:00 安岡晶子(甲南女子大学大学院)・大倉正暉(甲南女子大学)
周辺視野の奥行き・大きさ知覚に及ぼす両眼視差の効果

両眼立体視は、周辺視野ほど低下することが、既往研究から示されている。しか し広範囲の視野を組織立てて測定した研究は少ない。そこで本研究では、偏心度 0度の基準図形を凝視し,偏心度30度までに提示した視標図形の奥行き・大きさ 知覚量を、マグニチュード推定法を用いて測定した。各偏心度の視標図形を、観 察者から等距離に提示した場合、偏心度10度未満ではほぼ一定の奥行きが知覚さ れた。しかし15度以上は、盲点を避けた場合でも奥行きが減少することが示され た。一方、大きさ知覚に対する両眼視差の効果は、偏心度10度未満から確認され なくなった。次に、各偏心度の視標図形を観察者の前額平行面上に提示した場合、 奥行き知覚は偏心度30度、大きさ知覚は25度まで両眼視差の効果がみられた。以 上より、周辺視野における奥行きと大きさ知覚に対する両眼視差の効果が、偏心 度ごとに確認された。

第10回: 2011年1月27日(木)17:00〜19:00 下野孝一(東京海洋大学)
両眼視野内の単眼刺激の方向定位

単眼刺激の方向は,網膜像位置に依存するというのが従来の見解であった。しか しながら、最近、単眼刺激と両眼刺激を同時提示すると、単眼刺激の視方向は両 眼刺激の網膜像差に影響されるという事実が数多く見出されている。本発表では、 これらの事実についてレビューするとともに、われわれが見出した現象(両眼刺 激とともに提示した単眼刺激を、側方の頭部運動ともに観察すると単眼刺激が運 動して見える現象)について報告する.われわれはこの現象を説明するために, 面デフォルト仮説(単眼刺激は両眼刺激の面に定位されたために頭部運動に同期 して運動して見える)を提出した.両眼刺激の網膜像差量,頭部運動量を変数と し,単眼刺激,両眼刺激それぞれの見かけの運動量,奥行き量を測定した結果, 単眼刺激の見かけの運動量は両眼刺激のそれに比して小さかったが,両眼刺激の 網膜像差量,頭部運動量に依存して変化した.これらの結果は仮説を支持するも のであった.

第9回: 2010年12月16日(木)17:00〜19:00 根岸一平(ATRメディア情報科学研究所)
多視点立体画像呈示における,視点移動に伴うフリッピング知覚に対する視点密度の影響
二枚以上の画像を用意して,観察位置によって異なった画像を表示する多視点立体表示装置が開発されている.この装置の長所として運動視差を表現する事により臨場感を増すことや視点移動の際の画像の歪みの軽減などが挙げられるが,その反面画像の切り替わり時にフリッピングが知覚され,これが観視者に違和感を与える可能性がある.視点の配置を密にすることでフリッピングを軽減することが可能であるが,実用化にあたっては観視者にとって十分な視点密度がどの程度であるかを知る必要がある.そこで本研究では,両眼立体画像の呈示時に,頭部位置に応じた視点からの画像に切り替えることで多視点立体表示の状況を作り出し,このときの視点間隔と観視者が感じる映像のクオリティーの関係を,観視者の主観によって評価した.結果として,十分に滑らかに知覚されるために必要な視点密度は,隣り合う視点における画像間の視差量に比例し,また単位時間あたりの視点移動の回数に反比例することがわかった.
第8回: 2010年11月17日(水)17:00〜19:00 久保寺俊朗(東北学院大学)
自己運動知覚における視覚と前庭感覚とのマルチモーダル処理
自己運動知覚は主に視覚と前庭感覚とを使用したヒトにとって重要な知覚のひとつである。本研究では,直交する身体運動とオプティカルフロー(vection)とを同時呈示した際に生じる自己運動方向を測定した。測定の際に,運動方向の組合せ,身体運動の振幅,オプティカルフローの振幅を操作した。観察者はモーター制御で振幅運動するブランコ装置(前/後,左/右)に着席し,HMDで身体運動とは直交するオプティカルフロー(拡大/縮小,左/右,上/下)を観察した。方向知覚の測定にはロッドポインティング課題を使用した。実験結果は,すべての組合せ条件で観察者は身体運動とvectionとの中間方向への自己運動を知覚することを示した。また,知覚方向は視覚運動の振幅が大きくなるとvection方向に近づき,身体運動の振幅が大きくなると身体運動方向に近づくことを示した。これらの結果は刺激強度に応じて感覚間統合を行っている可能性を示唆するものと考える。
第7回: 2010年10月21日(木)17:00〜19:00 横山光太郎(富山大学大学院理工学教育部)
輝度定義運動の知覚における単眼/両眼観察の違い
単眼観察と両眼観察とを比較すると,後者の方が感度が高い,あるいは反応時間が短いなどの促進的効果が見られる.本研究では,両眼観察による促進的効果が輝度定義の連続運動の知覚においても存在するかを調べた.まず運動方向を判別できる速度閾を計測し,次に,閾上のおける両眼/単眼観察の運動速度の主観的等価値を計測した.それぞれの実験は,中心窩および周辺視で行った.刺激は暗黒中のガボールパッチであり,キャリアが運動した.被験者はステレオスコープによって刺激を観察した.閾値の実験では,運動方向を2AFCで応答した.PSEの実験では,両眼刺激,単眼刺激がランダムな順番で継時的に提示され,被験者はどちらが速く見えたかを2AFCで応答した.実験の結果,単眼観察は両眼観察よりも運動検出閾が高いこと,また,両眼観察のほうが単眼観察よりも知覚速度が速いことがわかった.
第6回: 2010年9月16日(木)17:00〜19:00 朝田雄介 大阪大学生命機能研究科(大澤研) 博士課程
Does functional columnar organization extend across hemispheric boundaries?
  The cortical representation of visual field is divided between the two hemispheres in the early visual cortex with only a slight overlap along the vertical meridian. Therefore, when an object lies on the vertical meridian, visual information about it must be stitched together between the two halves. Within a given hemisphere, the continuity of visual representation on the cortical surface is assured by the retinotopy and the columnar organization for stimulus parameters such as orientation. Does this continuity extend across the hemispheric boundary? Specifically, for example, do a pair of neurons separated across hemispheres tend to have similar tuning properties if their receptive field positions overlap?
  To address these questions, we measured receptive field positions and tuning properties of multiple cortical neurons recorded simultaneously across the two hemispheres in anesthetized and paralyzed cats. Reverse correlation method was used for analyzing the activities of these neurons in response to ternary dynamic dense noise stimuli. The degree of overlap of receptive fields for each pair of neurons was used as a metric of the proximity of receptive fields. The similarity of tuning properties of the pair was evaluated by the correlation coefficient in the 2-D spectral domain, i.e., in the joint spatial-frequency and orientation domain, using the strongest maps at the optimal correlation delay from the local spectral reverse correlation (LSRC) analysis (Nishimoto et al., 2006).
  Our results show that hemispherically-separated pairs of neurons with greater degree of receptive fields overlap tended to be more similar in their tuning properties in the spatial frequency and the orientation domain. Pairs with distant receptive fields tended to have dissimilar tuning properties.
  We therefore conclude that the continuity of cortical representation in the early visual cortex is maintained not only within a hemisphere, but also across the hemispheric boundary. Such cross-hemispheric continuity of the cortical representation may be of great importance in binding the two halves of the visual field into a coherent and accurate single visual map.
第5回: 2010年7月15日(木)17:00〜19:00 鯉田孝和(1,2,3)、岡澤剛起(1,2)、小松英彦(1,2)(1生理研、2総研大、3豊橋技科大)
クリッピング錯視:色変化による見かけの明るさ向上錯視の発見
色度一定の画像の一部にわずかな色相変化を加えることで、見かけの明るさ感が大きく向上する現象を発見した。色変化は画像中で高輝度の少数(10%程度)ピクセルに対してのみ与え、色の変化量は輝度に相関させる。画像の輝度は変化させない。元画像として風景、物体、ガボールパッチのどれを用いても安定して効果が得られた。効果の大きさは色度変化量に比例し、最適条件では140%の輝度上昇に相当する明るさ感向上を示した。効果を起こすための最適な色変化方向があり、逆方向に色を変化させると逆効果(暗く感じられる)が生じた。最適方向は元画像の色度に依存しており、元画像がオレンジであれば黄、白方向が最適であった。この現象は既知の効果(高彩度刺激の明るさ感向上)では説明できない。可能な解釈の一つとして、高輝度刺激で発生するセンサ飽和による色ずれ(Bezold-Brucke hue shift)を補正する高次機能であるという説明が挙げられる。
第4回: 2010年6月17日(木)17:00〜19:00 澤山 正貴(千葉大学)
空間的に分節された領域における明るさの局所処理
ある領域の明るさは、その周辺領域の輝度によって影響を受ける。さらに、この影響は、周辺領域を空間的に分節する(異なる輝度を持つ複数の小領域に区分する)と大きくなることが報告されている(分節効果、Gilchrist et al., 1999)。この分節効果に対して、領域の分節が明るさの局所的な処理を引き起こすという説が提唱されているが(Adelson, 2000)、その詳細については不明な点が多い。本研究では、この明るさの局所処理の観点から分節効果の基礎となる視覚メカニズムを探った。実験1では、刺激の局所的な布置を一定に保ったまま全体的な布置を操作し、その時の明るさ知覚を検討した。その結果、局所的な刺激布置を一定に保つかぎり、分節領域内での明るさ知覚は変化せず、分節効果に対する明るさの局所処理の影響が示唆された。さらに、実験2・3では、明るさの局所処理の規定要因を探るため、分節領域内で図地の分化が生じる刺激を用い、図と地の領域における明るさ知覚について検討した。その結果、図と地の領域で明るさ知覚の決定のされ方が異なり、明るさの局所処理とそれに伴う明るさ知覚の変化には図地の分化が影響を及ぼすことが示唆された。以上の結果から、分節領域内での明るさ知覚は、明るさの局所処理に強く依存して決定されており、この局所処理は図地の分化のような空間的体制化の処理が行われた後の刺激構造に基づいても行われる可能性が示唆された。
第3回: 2010年5月20日(木)17:00〜19:00 藤井芳孝(東工大)
両眼視差が隣接する領域の奥行き知覚に与える影響
両眼視差が奥行き手がかりとして機能するためには,両眼間に対応する網膜像が必要である.しかし,実際の視環境では,耳側の視野・盲点・半遮蔽領域・特徴に乏しい領域といった対応の欠落領域が存在するため,両眼視差はまばらに分布していると言える.しかし,日常的な視環境では情報の欠落が意識されることはなく奥行きを知覚することができる.このことは,空間的な情報の欠落を補う処理の存在を示唆するものである.今回の発表では,両眼視差が欠落した領域の奥行き知覚がどのように決まるのかを明らかにするために,ラン
ダムドットステレオグラムによる奥行き面の一部を単眼視領域とした刺激を用い,そこで知覚された奥行き面の形状を調べ,どのような処理に基づいて視差欠落領域の奥行きが決まるのかについての議論を行いたいと思う.
第2回: 2010年4月15日(木)17:30〜19:30 山本 健太郎(九州大学)
運動・静止対象の速度感が時間知覚に及ぼす影響
物理的な観察時間が等しくても,観察する対象の運動や運動速度によって知覚される時間(観察時間)の異なることが知られている.本研究では,運動対象の錯覚的な速度や静止対象の速度印象も同様に,知覚される時間に影響を及ぼすのかを検討した. 実験1では,対象とランダムドットの相対的な運動方向を変化 させて知覚速度を操作し,時間再生課題をおこなった.その結果,対象とランダムドットが反対方向に移動する不一致条件において,同方向に移動する一致条件よりも対象の速度が速く感じられ,観察時間も長く知覚されることが示された.実験2, 3では, 人型キャラクタの姿勢を変化させて速度印象を操作し,時間知覚への影響を検討した.その結果,時間再生課題を用いた実験2では速度印象の影響は示されなかった.しか し,時間二分課題を用いた実験3では,運動印象を喚起する刺激を観察した時間が,運 動印象を喚起しない刺激を観察した時間よりも長く知覚されることが示された.これらの結果は,運動対象の錯覚的な速度や静止対象の速度印象も同様に,時間知覚に影響を及ぼすことを示唆している.さらに実験3の結果は,高次の視覚段階における運動情報処理が時間知覚に影響することを示唆している.現在は運動縞刺激を用い,移動距離を統制した状態での錯覚的な速度の影響を検討しており,その結果についても紹介をおこなう予定である.


2009年度開催

第1回: 2010年3月19日(金)17:00〜19:00 柏瀬 啓起(東北大学)
一過性信号による定常的視覚誘発電位の変調の時間特性
視覚的注意は,観察者が随意的に制御することができる一方で(内発的注意),刺激の突発的呈示などの顕著な特徴によっても捕捉されうる(外発的注意).本研究では,定常的視覚誘発電位(Steady-State Visual Evoked Potential:SSVEP)を用いて外発的注意の時間特性を検討した.SSVEPはフリッカ刺激によって誘発される脳波成分であり,フリッカ刺激に同期した神経応答が得られる.視覚的注意をフリッカ刺激に向けることによって,その刺激に誘発されるSSVEPの振幅量が変調されることが明らかになっている(Morgan et al., 1996; Muller et al., 1998).今回我々は,フリッカ刺激近傍にフラッシュ刺激を呈示した場合のSSVEPの変調から,外発的注意の時間特性の推定を試みた.その結果,フラッシュ刺激呈示後200 ms付近で,フラッシュ刺激近傍のフリッカ刺激によって誘発されるSSVEPの振幅量が,呈示されなかった場合と比較して一時的に低下した.この結果は,一過性刺激によって駆動された外発的注意がSSVEPを変調したことを示唆する.これが外発的注意の効果であるとすると,従来の心理物理学的に測定された外発的注意の時間特性と一致する.


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