ウェルズ―ヘリングの視方向原理によれば、単一視が成立している両眼刺激の知覚される視方向は、左右眼における視軸からの偏位の平均となるとされていますが、単眼遮へい領域のある場合(Erkelens, Muijs & van Ee, 1996) や左右眼に与えられる像の輝度コントラストに差がある場合(Mansfield & Legge, 1996)には、この原理からの逸脱が見られることが知られています。これらの視方向原理からの逸脱現象は、主に左右の眼に与えられる対象の位置情報の重みづけの変化によって説明がなされています。今回の発表では、立体視による3次元構造、特に対象の周囲に提示される面の傾き(slant) によって、対象の垂直視方向が影響されることを示唆する実験結果について、ウェブサイト上のデモ(http://www2.kaiyodai.ac.jp/~tkusan0/demo/) を参照しつつ、議論させていただければと考えています。
実験1では、水平視差によって奥行き差の知覚される2面を水平に配置し、それぞれの中心に水平線分を配置すると、それらの線分の垂直相対視方向が、観察時の垂直頭部位置に依存して変化する現象について検討しました(デモ1)。頭部位置によらず線分は物理的には一直線に並んでいるので、視方向原理によれば、それらの視方向は頭部位置の変化に影響されないと予想されます。したがって、この現象は視方向原理からの逸脱現象と考えることができます。実験では、副尺課題によって相対視方向の偏位量を測定したところ、頭部位置および線分を囲む面の相対視差によって偏位量が組織的に変化しました。実験2では、眼球位置の効果を排除するため、頭部位置の操作にかえて、せん断視差(shear disparity)による水平軸を中心とした傾きを用いた場合(デモ2)においても、実験1と同様の相対視方向の偏位が生起することを確認しました。これらの実験結果をもとに、この現象の生起要因について検討したいと考えています。
Mansfield, J. S., & Legge, G. E. (1996). The binocular computation of visual direction. Vision Research, 36, 27-41.
Erkelens, C. J., Muijs, A. J. M., & van Ee, R. (1997b). Capture of visual direction of monocular object by adjacent binocular objects. Vision Research, 37, 1735-1745. |