Internet Vision Meeting(iVM) 2012年度開催記録


2012年度開催

第31回:2013年3月14日(木)18:00〜19:30 須長正治(九州大学大学芸術工学研究院)
視覚探索による2色覚シミュレーションの評価

現在、2色覚者にはわかりにくい色使いを避けるというカラーユニバーサルデザインがデザインの分野で浸透しはじめてきている。このとき、頻繁に用いられる方法がBrettelら(1997)によって提案された2色覚者の色の見えのシュミレーションであり、シミュレーション後のデザインを3色覚者が見て、見分けにくいかどうかの判断を行っている。このシミュレーションでは、2色覚者の同一混同色線上の色が同じ色として再現されるため、混同色は見分けられなくなるが、類似した色の間での見分けやすさが2色覚者と3色覚者で同じであるという根拠はない。そこで、視覚探索課題を用い、見分けられる色の間での見分けやすさを2色覚者と3色覚者で比較した。実験では、シミュレーションしていないオリジナル刺激を強度の2型3色覚者に、Brettelらのシミュレーションを施した刺激(2型)を3色覚者に見せ、目標刺激となる色を見つけるまでの反応時間を測定した。その結果、オリジナル刺激を提示された強度の2型3色覚者の反応時間はシミュレーション刺激を提示された3色覚者の反応時間よりも短かった。このことは、先に述べた3色覚者によるシミュレーションでの見分けやすさの判断が2色覚者にとっては不十分なものであることを示唆している。さらに、発表では、この違いの原因について考察し、修正シミュレーションモデルを提案する。

第30回:2013年2月21日(木)18:00〜19:30 高橋純一(東北大学大学院文学研究科)
健常大学生を対象とした自閉症スペクトラム指数と視覚的短期記憶

本研究では,健常大学生を対象とした自閉症スペクトラム指数 (AQ) において,空間形状の複雑さが視覚的短期記憶(VSTM) に及ぼす影響の違いについて検討した。空間形状の複雑さは,Garner & Clement (1963) による同等集合サイズ(ESS) を用いて,単純(ESS-4) 及び複雑な(ESS-8) 空間形状として定義された。予備調査の AQ 得点 (n = 120) から,自閉症傾向が高い群「High AQ (n= 11)」と自閉症傾向が低い群「Low AQ (n = 9)」を抽出し,WAIS-III (動作性検査) 及び変化検出課題を行なった。変化検出課題では,様々な傾きをもった9つの線分が,300,500,900msの提示時間により記憶画面とテスト画面に反復提示された。実験参加者の課題は,両画面に提示された線分の傾きの有無を強制二肢選択法によって判断することであった。まず,両群のWAIS-III得点に有意差は見られなかった。また,変化検出課題では,提示時間が長い条件 (900ms) で,Low AQ では ESS-4 の方が ESS-8 よりも VSTM 容量が大きかったが,High AQ では ESS-4 と ESS-8 との間に VSTM 容量の違いはなかった。したがって,Low AQ で認められる空間形状の複雑さの影響が,High AQ では認められないことが示された。また,WAIS-III (動作性検査) の結果より,記憶容量の群間差は,両群の知能指数の違いではないことも示された。以上の結果は,自閉症者が知覚情報の統合に困難を示す「中枢統合の脆弱性仮説 (Frith, 1989)」を支持するものであると考えられる。

第29回:2013年1月31日(木)18:00〜19:30 草野勉 (東京海洋大学)
観察時の頭部位置および背景の傾きによる両眼視方向の偏位

 ウェルズ―ヘリングの視方向原理によれば、単一視が成立している両眼刺激の知覚される視方向は、左右眼における視軸からの偏位の平均となるとされていますが、単眼遮へい領域のある場合(Erkelens, Muijs & van Ee, 1996) や左右眼に与えられる像の輝度コントラストに差がある場合(Mansfield & Legge, 1996)には、この原理からの逸脱が見られることが知られています。これらの視方向原理からの逸脱現象は、主に左右の眼に与えられる対象の位置情報の重みづけの変化によって説明がなされています。今回の発表では、立体視による3次元構造、特に対象の周囲に提示される面の傾き(slant) によって、対象の垂直視方向が影響されることを示唆する実験結果について、ウェブサイト上のデモ(http://www2.kaiyodai.ac.jp/~tkusan0/demo/) を参照しつつ、議論させていただければと考えています。
 実験1では、水平視差によって奥行き差の知覚される2面を水平に配置し、それぞれの中心に水平線分を配置すると、それらの線分の垂直相対視方向が、観察時の垂直頭部位置に依存して変化する現象について検討しました(デモ1)。頭部位置によらず線分は物理的には一直線に並んでいるので、視方向原理によれば、それらの視方向は頭部位置の変化に影響されないと予想されます。したがって、この現象は視方向原理からの逸脱現象と考えることができます。実験では、副尺課題によって相対視方向の偏位量を測定したところ、頭部位置および線分を囲む面の相対視差によって偏位量が組織的に変化しました。実験2では、眼球位置の効果を排除するため、頭部位置の操作にかえて、せん断視差(shear disparity)による水平軸を中心とした傾きを用いた場合(デモ2)においても、実験1と同様の相対視方向の偏位が生起することを確認しました。これらの実験結果をもとに、この現象の生起要因について検討したいと考えています。

Mansfield, J. S., & Legge, G. E. (1996). The binocular computation of visual direction. Vision Research, 36, 27-41.
Erkelens, C. J., Muijs, A. J. M., & van Ee, R. (1997b). Capture of visual direction of monocular object by adjacent binocular objects. Vision Research, 37, 1735-1745.

第28回:2012年12月13日(木)18:00〜19:30 波間智行 (生理学研究所・総合研究大学院大学)
サル下側頭皮質ニューロンの色選択性に刺激輝度コントラストの変化が与える影響

 色刺激の輝度コントラストの変化は色の見えを変化させることがある。たとえば同じ色度をもつ色でも、橙色や茶色、白色や黒色などの見えの異なる色として知覚されることがある。色知覚のもつこのような性質から、色知覚のメカニズムを理解する上では、視覚野の色選択性ニューロンで輝度コントラストが色選択性にどのように影響するかを明らかにすることが重要であることが考えられる。本研究では、色知覚への深い関与が考えられている下側頭皮質(IT)の色選択性ニューロンにおいて、色刺激の輝度コントラスト変化がニューロンの色選択性応答にどのような影響を与えるかを検討した。
 注視課題遂行中のマカクザルの前部下側頭皮質色領域(AITC)および後部下側頭皮質色領域(PITC)から単一細胞外電位記録を行った。視覚刺激は15個の色刺激を用いた。それぞれの色刺激を、グレー背景(10 cd/m2)に対して高い輝度(20 cd/m2)もしくは低い輝度(5 cd/m2)で呈示した。明るい色刺激に対するニューロン活動と暗い色刺激に対するニューロン活動を比較し、下側頭皮質の色選択性ニューロンの応答に刺激輝度コントラストが与える影響を検討した。
 ニューロンの色選択性応答の変化を領野ごとに比較した結果、PITCはAITCに比べて輝度コントラスト変化の影響がより強くみられた。特に、PITCでは中間色の色刺激(白色点)およびその周辺の低彩度色で輝度コントラスト変化の強い影響がみられ輝度コントラストによる色の見えの変化によく対応していた。

第27回:2012年11月15日(木)18:00〜19:30 辻田匡葵 (千葉大学大学院人文社会科学研究科)
身体運動-視覚間時間的再較正に順応時の観察者の注意が及ぼす影響

観察者の能動的な身体運動に合わせて一定の遅延を伴った視覚的フィードバック が提示される状況が持続すると、遅延を補償する方向に身体運動と視覚との間の 時間順序知覚が再較正される。本研究では、身体運動-視覚間で生じる時間的再 較正の過程に注意がどのように寄与しているのかを,順応中における観察者の注 意を操作する注意課題を設けた実験によって検討した。すなわち,順応中の注意 課題として、視覚的フィードバックとは別に提示される注意刺激の提示回数を観 察者に数えさせる課題を設け,時間的再較正の成立がこのような注意の操作によ る影響を受けるか調べる実験を行った。実験1では、注意刺激として視覚的刺激 もしくは聴覚的刺激を提示して、注意を向ける知覚様相の違いによって時間的再 較正が受ける影響を調べた。その結果、視覚的フィードバックとは異なる知覚様 相である聴覚に注意を向けた場合には再較正が生じ難くなることが見出された。 実験2では、注意刺激として、視覚的フィードバックの提示位置と同じ位置もし くは異なる位置に視覚刺激を提示して、視覚的注意を向ける空間的位置の違いに よって時間的再較正が受ける影響を調べた。その結果、視覚的フィードバックと 同じ位置に視覚的注意を向けた場合だけでなく、順応刺激と異なる位置に視覚的 注意を向けた場合にも、明確な再較正が生じることが見出された。これらの結果 から、身体運動-視覚間で生じる時間的再較正の成立には空間的位置に関係なく 視野内へと注意を向けている状態が必要であることが示唆された。

第26回:2012年10月18日(木)18:00〜19:30 光藤宏行(九州大学)
視野の安定とサッカード抑制

近年,跳躍眼球運動(サッカード)による網膜像の移動に伴い視対象が動いて見えることを報告した(Mitsudo & Nakamizo, 2010, Perception)。両眼で輝度差のある静止刺激をダイコプティックに呈示しそれを見ながらサッカードを行うと,一方の眼の像は静止して見えるがもう一方の眼の像はサッカードに伴って動き,安定が失われて知覚されるという現象である。本研究ではこの現象がサッカードによる見えの抑制で説明できるかを検討するために,刺激呈示中に刺激の一部を短時間変化させ,その検出率を測定した。実験の結果,さまざまな刺激条件で類似したサッカード抑制がみられた。従ってこの現象はサッカード抑制では説明できず,サッカード抑制とは関係のない網膜外信号を用いるプロセスも知覚的安定に寄与していることを示唆する。

第25回:2012年7月19日(木)18:00〜19:30 佐々木耕太 (大阪大学大学院生命機能研究科)
経験方位が制限されたネコにおける、細胞レベルの優れた刺激選択性

幼若期に感覚経験が制限されると、その環境でヒトや動物が利用できる情報を最大限に活用するような適応がしばしばおこる(Lessardら(1998))。こうした適応はどのような神経基盤によってもたらされるのだろうか?感受性期に経験方位を制限すると、その方位によく応答する神経細胞の割合が1次視覚野において極端に高まることが古くからよく知られている(BlakemoreとCooper(1970))。経験方位を制限したことでもたらされる影響はそれだけなのだろうか?cylindrical lensesによりゴーグルを作製し(+67diopter。1.2cpdで12度、0.15cpdで38度の範囲の方位のみ透過する。Tanakaら(2007))、これを生後3週目から慢性的に装着してネコを飼養した。少なくとも6週間ネコが経験する方位を縦の方位に制限した後でシングルユニット記録を行い、ひとつひとつの神経細胞の方位に対するチューニングを計測したところ、正常な視覚経験をうけて飼養されたネコに比べて、縦の方位に選択的に応答する細胞のバンド幅は狭く(半値全幅、30.1度±15.9度(平均±標準偏差))、それ以外の方位に選択的に応答する細胞のバンド幅は広くなっている(54.8度±29.7度)いることがわかった(P< 0.001、Kruskal-Wallis test。正常ネコ 43.0度±22.9度。)。先行研究と同じように、多数の神経細胞の最適方位が縦の方位であった(147個のうち102個の細胞)。しかしながら、経験方位を縦の方位に制限した影響は、縦の方位以外に一様におこっているわけではなかった。斜めの方位を最適とする細胞の数(17個)は、水平の方位を最適とする細胞の数(27個)よりも有意に少なかった(P< 0.005、二項検定。これらの細胞の数は、たくさんの正常ネコからシングルユニット記録を行ったところ、それぞれ1121個と703個だった。)。結果として、個々の細胞の方位チューニングを足し合わせて神経細胞集団としての方位チューニングを求めたところ、水平方位に対する応答は斜めの方位に対する応答よりも有意に強いことがわかった(P< 0.001、resampling)。

第24回:2012年6月14日(木)18:00〜19:30 篠原浩一郎 (東京工業大学大学院総合理工学研究科)
網点の側帯波としてのジッター検出に対する空間周波数感度

印刷の世界では、微細なグレーティングを用いたハーフトーンスクリーンにより画像を形成する事が多い.グレーティングが水平方向のジッターによって乱されるとき、我々は水平方向の縞模様(バンディング)を観察する事がある.ジッターの付加されたグレーティング画像にフーリエ変換(FFT)を行った場合,画像の空間周波数スペクトルにはバンディングの空間周波数成分が存在しない.さらに、グレーティングの空間周波数が視感度の検出限界を越えたときでも,バンディングは観測される.ここでグレーティング(搬送波)は水平方向の縦波であり,ジッター(側帯波)はたて方向の横波である. この二重周期性が原因となって高調波が発生する.この影響を把握するため,単一周波数(69cpd)グレーティングと高調波を取り除いた側帯波ジッター(5.2cpd)によるバンディングの感度テスト行った.2AFCにより求めた応答曲線とジッター・スペクトルとグレーティング・スペクトルの交差項の相関は非常に高い.これは初期領野における非線形応答の存在を強く示唆している.バンディングのスペクトルは初期領野における非線型性と空間周波数特性の組合せによって作り出されると考えられる.

第23回:2012年5月24日(木)18:00〜19:30 東工大、千葉大、東北大学
VSS報告会

VSSでの研究発表紹介。

 


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