人間は曖昧な視覚情報からでも具体的な対象を認識することができる. これは人が内的に持っている知識や経験を用いることで,視覚入力された不完全な情報を補完・解釈しているためであると考えられる.本研究では機能的磁気共鳴画像法を用いることで,劣化画像認識時の脳活動を計測し,曖昧な視覚情報を補完するための神経基盤を明らかにすることを目的とした.実験では人間,風景, 道具の3つのカテゴリーに分けられた画像刺激を,空間周波数フィルターによって劣化させた上で被験者に提示し,その刺激カテゴリーを識別させた.その結果,腹側視覚野にある刺激カテゴリーに選択性を持つ領域(顔:Fusiform Face Area, 身体:Extrastriate Body Area, 風景:Parahippocampal Place Area, 道具: Middle Temporal Tool Area)が,有意味なオブジェクトの認識に先だって活動することが確認された.さらに画像の認識が成立すると,認識された刺激カテゴ リーに対応する領域の活動が増強し,非対応領域の活動が抑制された.これは腹側視覚野のカテゴリー対応領域が,劣化画像の識別時には内的な情報源として働き,認識時にはその活動の増強と抑制を持って知覚を安定化させている可能性を示唆している. |