Internet Vision Meeting(iVM) 2011年度開催記録


2011年度開催

第22回: 2012年3月15日(木)18:00〜19:30 森戸勇介(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究室)
劣化画像認識時における腹側視覚野の役割

人間は曖昧な視覚情報からでも具体的な対象を認識することができる. これは人が内的に持っている知識や経験を用いることで,視覚入力された不完全な情報を補完・解釈しているためであると考えられる.本研究では機能的磁気共鳴画像法を用いることで,劣化画像認識時の脳活動を計測し,曖昧な視覚情報を補完するための神経基盤を明らかにすることを目的とした.実験では人間,風景, 道具の3つのカテゴリーに分けられた画像刺激を,空間周波数フィルターによって劣化させた上で被験者に提示し,その刺激カテゴリーを識別させた.その結果,腹側視覚野にある刺激カテゴリーに選択性を持つ領域(顔:Fusiform Face Area, 身体:Extrastriate Body Area, 風景:Parahippocampal Place Area, 道具: Middle Temporal Tool Area)が,有意味なオブジェクトの認識に先だって活動することが確認された.さらに画像の認識が成立すると,認識された刺激カテゴ リーに対応する領域の活動が増強し,非対応領域の活動が抑制された.これは腹側視覚野のカテゴリー対応領域が,劣化画像の識別時には内的な情報源として働き,認識時にはその活動の増強と抑制を持って知覚を安定化させている可能性を示唆している.

第21回: 2012年2月16日(木)18:00〜19:30 玉田 靖明(北九州市立大学大学院 国際環境工学研究科)
両眼視差による形状の歪みのパターン依存性

両眼視差によって定義された奥行きは,条件により幾何学的な予測とは反対に知覚される(奥行き反転).奥行き反転は,両眼視差によって生じた見かけの形状の歪みが両眼視差と反対の奥行きを示す遠近法情報として働くことによって生じると考えられている.この理論によれば,奥行きが反転するためには,両眼視差により形状の歪みが生じること,および両眼視差よりも遠近法情報が重視されることの2つが必要である.形状の歪みと重み付けのどちらが奥行き反転の条件依存性に寄与しているのかを明らかにするために,4つの視差分布パターン((1) 傾斜する平面,(2) 0.5周期の正弦波曲面,(3) V字面,(4) 1周期の余弦波曲面)を用いて,マッチング法により見かけの奥行きと形状を定量化した.12名の被験者の中で4名が傾斜する平面においてのみ反転した奥行きを知覚した.解析の結果,奥行き手がかりの重み付けは個人に依存し,形状の歪みは視差分布パターンに依存することが明らかになった.

第20回: 2012年1月26日(木)18:00〜19:30 岡田研一(大阪大学大学院 生命機能研究科)
サル脳幹ニューロンの活動とサッカードに伴う知覚抑制

私たちはサッカードと呼ばれる高速な眼球運動によって視線を動かし、外界をスキャンすることで物を見ている。サッカードに伴って視覚系は運動刺激を受け取 っているが、私たちがそれを知覚することはない(サッカードに伴う知覚抑制)。 これまでの研究により視覚処理の初期段階に位置する視床のLGNですでに、サ ッカードに伴うニューロンの反応性の低下とその後のリバウンド活動が報告され ているが、そうした活動修飾のメカニズムについては未だ明らかでない。いっぽ うで、LGNへのアセチルコリン作動薬の投与や脳幹網様体への電気刺激によっ てLGNニューロンの反応性が変わることが報告されてきた。しかし、実際にサ ッカードをしている動物の脳内で脳幹網様体のニューロンがどのような活動を示 すのかは不明なままだった。
我々は脳幹網様体の主要なアセチルコリン性細胞の核である脚橋被蓋核 (Pedunculopontine tegmental nucleus; PPTN)に着目し、サッカード課題 遂行中のサルPPTNニューロンの活動を記録した。実験の結果、1群のPPTNニューロンでサッカードに伴う活動の停止とサッカードの終了後のリバウンド 応答がみられた。これらの活動変化はサッカード標的の有無によらずに起こり、 課題中の光点へのサッカードでも、課題間の暗闇でのサッカードでも、注視中の マイクロサッカードでも起こった。また活動停止のタイミングを詳細に調べたと ころ、実際のサッカードの開始に先立って活動は停止しその後サッカードの終了 後まで持続しており、知覚抑制を引き起こすために必要な信号特性を備えていた。 これらの結果は、PPTNからLGNへ送られる運動情報がサッカード抑制とサ ッカード後の視覚情報処理に寄与している可能性を示唆している。

第19回: 2011年12月15日(木)18:00〜19:30 岡澤剛起(生理学研究所・総合研究大学院大学)
サル視覚野における光沢に応答する領域のfMRIによる同定

光沢や透明、テクスチャなどの表面特性は、物体の素材や状態を知る上で重要な手掛かりとなる。先行研究により、サル視覚野には物体形状や顔、色に応答する領域があることが知られているが、表面特性への応答を記録した研究は多くないため、どの視覚領野が表面特性の知覚に重要であるかも十分に明らかとなっていない。そこで本研究では、光沢に着目し、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用いてサル視覚野において光沢のある面に応答する領域を探索した。実験には二頭のサルを用い、MRIスキャナの中で注視課題を行わせた。視覚刺激には、光沢のある物体、光沢のない物体、それぞれのスクランブル画像の4条件を用意した。スクランブル画像はウェーブレットフィルタを用いて局所的に輝度の位相をランダマイズすることにより作成した。実験の結果、二頭のサルで初期視覚野(V1〜V4)に加え、下側頭皮質(IT野)のいくつかの限局した領域において4条件のうち光沢のある画像に対して最も強い応答が見られた。また追加の実験により、これらの領域の応答は画像のコントラストへの応答では説明できないことが示された。これらの結果は、マカクザルの下側頭皮質の限局された領域において物体表面の光沢が表現されており、さらに初期視覚野でもコントラストや空間周波数以外に光沢の知覚にかかわる画像特徴量が表現されている可能性を示唆している。

第18回: 2011年11月17日(木)18:00〜19:30 前川亮(東工大)
両眼視差の変化が頭部運動に与える影響

垂直両眼視差は幾何学的には対象の方向に関する情報を持っており,視方向を知るための手掛かりとして利用できる.しかしながら,これまでの研究において垂直視差は方向の判断にはほとんど影響を与えないことが示されている.一方で、近年知覚と行動における視覚情報処理の違いが明らかになってきており、両眼視差においても知覚と行動での処理の違いを示唆する研究が行われている.そこで本研究では方向の判断に与える影響ではなく,垂直視差が方向に関する行動に与える影響について調べた.垂直視差は頭部に対する方向と視距離によって決定されるため,頭部方向と強い関わりがある.そこで実験においては、垂直視差を周期的に変化させた刺激を呈示し、その際の反射的な頭部運動を計測することで垂直視差が頭部方向の制御に与える影響を調べた.その結果,垂直両眼視差の周期的な変化に対して,わずかではあるがそれと同周期の頭部回転運動がみられた.この結果は,垂直視差が方向に関する姿勢の制御に利用されていることを示唆する.

第17回: 2011年10月27日(木)18:00〜19:30 山田祐樹(九州大学)
網膜座標非依存的な運動誘発変位

視対象と同様にわれわれの眼も常に動いているにもかかわらず,視覚系は安定した視覚世界の知覚を成立させている。この知覚的安定には網膜座標系に依拠しない視覚処理が関与している。多くの先行研究において,運動物体の初期位置と最終位置が運動方向前方に変位することが示されてきたが,それが網膜座標非依存的運動によっても生じるのかどうかはこれまで分かっていない。そこで,本研究は網膜座標非依存的運動が運動物体の初期位置 (実験1) および最終位置 (実験2) の変位を引き起こすかを調べた。実験1では,連続する2フレームの刺激画面に,2つの運動物体とそれを囲む参照枠を呈示した。第1フレームでは,運動物体はそれぞれ参照枠内に中心から水平位置ずれを伴いながら垂直に配置された。次に,第2フレームでは運動物体はそれぞれ第1フレームの位置から互いに離れるように移動した。網膜座標依存条件では,参照枠の位置は両フレームで同一であったが,一方で網膜座標非依存条件では第2フレームにおける刺激の位置が下方向にシフトした。実験2では実験1の刺激が時間的に逆転していた。観察者の課題は第1フレーム (実験1) あるいは第2フレーム (実験2) における2物体の水平位置のずれを報告することであった。結果として,効果量は減少するものの,網膜座標非依存条件においても初期位置および最終位置の有意な変位が認められた。この結果は,知覚的空間位置の決定に網膜座標系に依存しない運動処理も貢献していることを示唆する。

第16回: 2011年9月22日(木)17:00〜19:00 中島亮一(東北大学)
変化検出処理に対する持続的注意の影響

2つの継時呈示された刺激の中から、異なる部分を検出する課題を変化検出課題と言う。一般的な変化検出課題において、観察者は変化前画像を符号化し、その表象を一定時間保持した後、それを想起し変化後画像との比較処理を行う。変化検出において、視覚的注意(持続的注意)は視覚表象の保持には必要ないと言われている。しかし典型的な変化検出課題では、複数のオブジェクトの中の1個のオブジェクトの変化を検出する。そのため、1個のオブジェクトに持続的に向いている視覚的注意の効果を検討するのは難しい。そこで本研究では、1個のオブジェクトについての変化検出課題を、変化前画像と変化後画像間のブランク時間(200ms、1000ms)、位置関係(変化前後のオブジェクトの呈示位置の異同)を操作して行った。もし変化前オブジェクトに持続的に注意が向いているならば、変化後オブジェクトが異なる位置に呈示されると、注意の移動に伴い成績が低下すると予測される。実験の結果、ブランク時間が短い場合のみ、変化後画像が異なる位置に呈示されると変化検出成績が低下した。よって、持続的注意は短いブランクの間しか維持されないことが示唆された。さらに、変化後画像が同じ位置に呈示される条件では、ブランク時間が短いほうが高い成績となった。このことから、持続的注意状態を維持できていると、変化検出処理が促進されると考えられる。

第15回: 2011年7月21日(木)17:00〜19:00 中村哲之(千葉大学)
ハトにおける運動する刺激を用いた視覚探索課題

ヒトを含む視覚動物にとって、運動情報処理はダイナミックに変化する環境に 適切に対処していくために重要である。そうした処理は、生活環境の違いなどに よりに異なるものなのだろうか。本発表では、ヒトとは生態的に大きく異なるハ トが、運動する刺激をどのように知覚しているかについて調べた実験を紹介する。 実験1では、斉一運動の知覚的体制化(共通運命の法則)について検討するため に、運動する妨害刺激のなかから静止した刺激を探す視覚探索課題をおこなった。 各試行における妨害刺激は、斉一運動または異なる方向に運動した。ヒトでは斉 一運動条件においる効率的な標的探索がなされ、斉一運動刺激の体制化が示唆さ れた。しかしハトではそうした現象はみられず、むしろ複数の妨害刺激が斉一運 動すると個々の刺激の運動検出が困難になることが分かった。実験2では、自己 運動の知覚や制御に利用されるオプティック・フローの一運動成分である拡大・ 縮小運動の知覚について検討した。拡大する妨害刺激のなかから縮小する標的を 探す場合とその逆の探索をおこなう場合とを比べた結果、ヒトの先行研究で報告 されてきた拡大・縮小運動の探索非対称がハトにおいても生じることが示唆され た。運動刺激の特性や生態的な違いが、当該種における運動情報処理の仕方に影 響していることが示唆された。

第14回: 2011年6月16日(木)17:00〜19:00 水科晴樹(ATR 知能ロボティクス研究所)
立体映像及び実物体観視時の調節・輻輳応答の測定

立体映像視聴時の視覚疲労の原因の一つとされているものに,調節刺激と輻輳刺激の不一致がある. 本研究では,立体映像と実物体の観視時における調節・輻輳応答の静特性及び動特性の測定を行い, 立体映像が視機能に与える影響を調べた.調節・輻輳応答の同時測定には,Shack-Hartmann 波面 センサを用いた.静特性においては,輻輳応答は立体映像と実物体で系統的な差は見られなかったが,調節応答の視差が大きい場合において,立体映像と実物体とで顕著な差が見られた. 動特性(ステップ応答)においては,調節応答に顕著な個人差が見られ,視標接近時にオーバーシュートを示す被験者と示さない被験者がいた.しかし,視標離反時には調節応答のオーバーシュートを示す被験者はおらず,視標の移動方向による非対称性が見られた.以上のことから,立体映像の視機能への影響を明らかにするためには,調節・輻輳応答の静特性と動特性の両方を考慮する必要があると考えている.

第13回: 2011年5月26日(木)17:00〜19:00 千葉大、東工大、東北大学
VSS報告会

VSSでの研究発表紹介。

第12回: 2011年4月15日(木)17:00〜19:00 玉田 靖明(北九州市立大学)
運動視差による立体視の促進効果の頭部運動方向依存性

両眼網膜像差と運動視差を同時に与えると,二重像が生じるような大きな網膜像 差領域においても非常に大きな奥行きが知覚されることが知られている.本研究 では,この運動視差による立体視の促進効果の頭部運動方向依存性について検討 した.固視点の2.5°上もしくは下に直径0.8°の円形のターゲットを呈示し,網 膜像差,運動視差,あるいはその両方を与えた.知覚された奥行き量をマッチン グ法により定量化し,頭部を左右に動かした場合と前後に動かした場合に知覚さ れる奥行き量を比較した.実験1では両方向ともに頭部運動の範囲は13 cmで, 実験2では刺激の運動範囲が等しくなるように,左右方向では1.8 cm,前後方向 では50 cmの範囲で頭部を動かした.その結果,いずれの実験においても左右方 向の運動の場合には促進効果があったが,前後方向の場合にはなかった.これは, 立体視の促進効果が刺激の左右方向の運動に固有であることを示唆している.

 


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