修士論文・卒業論文・中級論文の書き方



A.論文の書式・構成

基本的に「論文の執筆・投稿の手びき」及び「中級論文・卒業論文の執筆にあたって」に書いてある内容に従うものとする。以下、その他の細かい点や手びきに書いていない点について補足する。

1.用紙および執筆方法

用紙: A4サイズを縦置き横書きで使用する。片面印刷で左側を綴じる。

執筆方法: ワードプロセッサ(例えばMicrosoft Wordや一太郎など)による清書を強く推奨する。

手書きの場合は指導教員に相談の上、適切な体裁をとること。

ワードプロセッサを使用する場合の書式は「執筆・投稿の手びき」および「中級論文・卒業論文の執筆にあたって」に指定された通りとする。

ファイルバインダに綴じ込むために穴を開けるので、左側のマージンを十分にとる。また、上下・右のマージンも2〜3cm程度とる。

2.装丁

装丁:A4サイズ縦の横開きのファイルバインダ(用紙に穴を開けて綴じるタイプ)を使用する。

卒業・修士・中級各論文の提出予定者には、それぞれ専用のバインダーを心理学教室より提供する。

背表紙ラベル: 提出年度、タイトル、学生証番号、氏名、指導教員名を書いた背表紙ラベルを作成する。

詳しくは表紙・背表紙の作り方(修士論文・卒業論文中級論文)およびそれぞれの見本を参照のこと。

3.タイトル

タイトルは指導教員と相談して決めること。副題はつけても良いが、主題・副題ともに適切な長さに収まるようにして(目安としては上述のラベルでそれぞれ1行に収まる程度)、研究内容を適切に示すタイトルをつけること。

最も大切なポイントは、他の人が読んで理解できるタイトルにすることである。

4.本文(ファイルに綴じ込む中身)

1ページ目: 題目

背表紙ラベルと同じ内容を書き、その下に論文の内容を表すキーワード(心理学用語)を3〜5語書く。

キーワードは単語ないし2〜3単語からなる語句であって、文ではないことに注意。

2ページ目: 目次

目次を手作業で作成するのは、無駄な手間をかけているばかりか、本文を修正するたびに手作業で目次のページ番号も修正しなければならないため、間違いやすいという問題もある。ワードプロセッサソフトには目次を作成する機能が必ずついているはず。論文全体の構造を正しく作れば(見出しを正しく指定するなど)、目次は自動で作成できる。詳細は後述する。

3ページ目以降: 論文本体

適切な体裁で、必要な内容を過不足なく記述する。ページ数は、上限・下限ともに指定はない。

目次の作成のために、各ページの適当な場所にページ番号を打つこと。以下はMicrosoft Wordに特化した説明である。

まず、スタイルの指定を正しく割り当てておく。具体的には、論文の階層的な構成に対して、それぞれのレベルの見出しに「見出し1」「見出し2」「見出し3」のスタイルを適切に対応させて指定しておく。これが目次を作成するときに使用される。

題目のページ(および目次のページ)にはページ番号を打ちたくない場合、ページ番号を打ちたい最初のページ(たとえば「目的」の章扉ページ)の手前に「セクション区切り」を挿入する。

そして、そのページからページ番号を挿入する。その際、「連続番号」の設定で前のセクションから継続するのではなく、新規に番号を1から打つようにする。

これでページ番号を打ちたい最初のページの番号が「1」となるが、この時点では題目ページにも番号が打たれてしまう。そこで、題目ページのフッターの目次番号を選択し、削除する。

次に、先ほど挿入した「セクション区切り」の手前に目次を挿入する。このとき、目次を自動作成するのではなく、「目次の作成」のダイアログでどのレベルの見出しまでを目次に入れるのかなどを指定するといいだろう。

これで、望み通りのページ番号が作成でき、それを反映した目次が作れるはず。

5.本文の構成

「手びき」に書かれている構成が唯一のものではない。よりわかりやすい構成があれば、その方が良いことは明白である。

研究論文の構成は、その研究の構成によって決まってくる。中心となる問題やテーマがあり、それに基づいて複数の実験や調査を行った場合には、次のような構成になるかもしれない。下の例は実験を2つ行った場合である。

以上の構成はあくまで一つの例であり、前述の通り、自分の研究の構造を考えて、適切な構成を考える必要がある。例えば、複数の実験に共通する手続きがある場合、個別の実験を記述する前に「一般的方法」として共通部分のみを説明してもいいだろう。いずれにしろ、自分の研究を読み手に理解してもらうにはどうすればよいのか、論文の構成の段階からよく考えること。

実験が複数ある場合、「一般的考察(あるいは全体的考察)」として、研究全体の目的に照らしてそれぞれの実験の間の関係を論じるセクションを設けることもあるが、実験が1つしかなければ、一般的考察を別に用意する必要はない。

大規模な論文の場合「章扉」のページを挿入することが一般的だが、中級論文・卒業論文の規模では、なくてもかまわないだろう。それでも「章扉」を作成する場合、上記の例のような構成であれば、一番上のレベルにのみ作成する(序論・実験1・実験2・一般的考察・結論など)。全ての項目にいちいち扉ページを作られては逆に読みにくい。

「謝辞」は論文に必須の項目ではない。もちろん入れてもかまわないが、この部分に労力をかけるのは本末転倒であることを強く自覚しておくこと。


B.論文の各項目の内容


ここに説明する構成は上記の構成例に基づいているが、構成が多少違っても書くべき内容が違うわけではない。適宜自分の研究に合わせた構成を考えたうえで、それぞれに書くべきことを以下の内容からよく吟味すること。

1 序論(目的)

その研究で取り上げたテーマについて、過去の研究を要約しつつ説明する。後述する研究の目的と関連づけられるようにまとめておくこと。序論で記述する内容は次の通り(すべてを含んでいなくてもよい)。

2 実験

複数の実験を行った場合、それぞれの実験の目的、方法、結果、考察を順序立てて記述する。ただし、この構成も必要に応じて変えてよい。例えば、全ての実験に共通する一般的方法を先に説明する、など。

2.1 目的

複数の実験を行った場合、個別の実験は研究全体の目的とは異なる(下位の)目的を持つことが普通であろう。研究全体の目的や他の実験との関係がわかるように、当該の実験の目的を記述する。

2.2 方法

実験の参加者・装置・刺激・手続き・反応測度などを適切に整理し、項目別に記述する。原則的に、この部分は全て過去形で記述する。

「必要なことを漏らさない」「無駄なことを書かない」という2つの大原則を守ること。

特に、研究方法については、後輩が同様の研究を行おうとしたときに、論文を読んで、その中の情報だけに基づいて実験・調査を再現できるように、十分詳しく記述することが重要である。ここで十分詳しくとは、実験・調査を再現するのに必要な情報はすべて含まれているが、読み手の常識に属する情報、あまりに些末な情報は、わざわざ書かなくてよいということである(極端な例を挙げると、実験にコンピュータを利用した場合でも、「まず最初にコンピュータの電源を入れ、次に参加者にディスプレイの前の椅子に座ってもらい...」などと説明する必要はない)。どこまで書けば「十分に詳しい」のかについては、各自の判断が要求されるところであるが、上記のような判断基準に基づいてよく考えてほしい。

2.3 結果

まず、実験結果がどのようなものであったかを伝えることが第一である。

そのために、データの整理の仕方を説明し、整理されたデータを記述する。この際には、図や表をできるだけ利用してわかりやすくなるよう工夫する。図や表については、「C.図、表についての注意事項」を参照のこと。

また、統計的分析を行った場合には、その方法と結果を記述する。

「結果」では、実験で得られた客観的事実を記述するのであるから、自分の意見を交えずに、客観的に述べること。

2.4 考察

この実験の結果としてわかったことは何か、得られた結果はどのように解釈できるか、などを記述する。客観的事実としての結果と、自分の解釈や意見をきちんと区別して記述すること。

この後に実験が続く場合、次の実験につながる話もここでしておく必要がある。

3 一般的考察

各実験から得られた事柄をまとめ、全体として考察する。研究全体の目的に対して、一連の実験の結果を総合するとどのようなことがわかったと言えるのか?この研究から得られた知見によって、他のどのような事柄が予測あるいは説明されうるかなども、あれば記述しておくとよい。

また、実験に問題点や改善案があればここで論じておく。どのような問題が解決されずに残ったか、今後の課題は何か、など。

4 結論

この研究から何が言えるのかをまとめる。結論は序論と対応がつくようにすること(内容が前後で矛盾したりしないよう)。序論で答えるべき問題を設定したのなら、結論において何らかの答がなくてはならない。

5 要約

研究全体の内容を簡潔にまとめる。目的・方法・結果・考察の主要なポイントを1ページ以内を目安に要約する。

6 引用文献

論文を書くにあたって引用した書物や論文の書誌事項を記述する。本文中でふれた文献は必ずここに記載しておくこと。

本文中での引用、文献リストの体裁は「心理学研究」誌に準ずる。見本として「心理学研究」を参照し、不明な点については「心理学研究」の執筆規定(「執筆・投稿の手びき」のこと)を参照するように。

7 謝辞

研究を実施するにあたってお世話になった人達にお礼を述べたい場合には、ここに記す。そういう人がいなければ、この項目は不要。

8 付録

整理されたローデータや調査用紙の実例などを必要に応じて載せる。さらに、実験刺激に用いた画像・動画・音声などのデータやプログラム、および結果のデータを集計したファイルなどは電子媒体で保存あるいは提出することが望ましい。ローデータやプログラムリストなど、印刷すると大量になるものは基本的にファイルのみで十分である。この手の情報は、紙に印刷した状態では再活用もしづらいので、印刷物を必要とする人はいないだろう。

何をどのように付録とするか、論文に含めるか、論文とは別にした方がよいのか、などは、指導教員と相談して決めること。


C.図、表についての注意事項

図表に関する注意事項は「手びき」の通りである。図や表は、あくまでも言葉での記述を助けるものなので、言葉での記述抜きの図表を載せてはならない。その図表が何を示しているのか、図表と本文の対応をきちんとつけて説明すること。

何を言葉だけで記述し、何を図で示し、何を表にするかをよく考えること。代表的な特徴は、次の通り。

図表の実例などについては、初級実験などで配布した資料を参照のこと。


D.論文を書く際の一般的留意点


1.科学的研究のレポートを書く

中級論文、卒業論文、修士論文などでは、科学研究のレポートを書くのだということを常に頭に入れておくこと。すなわち、どのような研究を行って、どのような成果を得たかを他者に報告するのであって、小説、エッセイ、感想文の類を書くのではない。このためには、論文を書く前に以下のような問いに対する答を自分なりに整理しておくとよい。これらの問いに答えられないまま論文を書いても、読み手には理解してもらえないはず。

2.読み手を常に念頭におき、読み手ができるだけ効率よく理解できるように書く

どのような読み手に向けて書くか。

中級論文、卒業論文などの場合は、教員に提出するものの、読み手としては、その実験・調査を行ったことのない同級生を想定するとよい。つまり、心理学について、ある程度の基礎的知識はあるが、その特定のテーマ、実験・調査については知らない学生を対象と考えるわけである。このように読み手を特定することにより、何を書くべきか、何を書かなくてもよいかがはっきりとしてくるはず。例えば、心理学に関するごくごく基礎的な用語などは、わざわざ説明しなくてもよいが、そのテーマに特有の概念、用語などには、簡潔な説明をつける必要がある。

読み手にわかるように書く。

論文は、自分が行ったことを人に理解してもらうために書くのであるから、自分にしかわからない言葉、記号などは用いてはならない。略語を用いる時にも、その略語が何を指すかをわかるようにしておくこと。

正確に、適切な言葉を用いて書くよう心がける。手書きの場合には丁寧にきれいな字で書くこと。単語の羅列は避け、常に文章の形で記述するように。

読み手が効率よく理解できるように書く。

研究論文では、必要な情報を絞り込んで簡潔にまとめることが大切である。ただし、ただ単に短かければ良いというわけではなく、できるだけ短い時間で、効率よく読み手が理解できるようにまとめることが重要となる。従って、読み手の理解を助けるためには、図や表を用いたり、分量としては長くなっても、一連の手続きをステップ毎に説明する、重要な事柄を言い替える、例を挙げるなどの工夫が必要になる場合もある。

詳細な情報や複雑な情報が必要な時には、その示し方を工夫する。例えば、実験条件、手続きが込みいっている場合には、図や表を利用する。数値のリストが必要な場合には表にする、などなど。

3.常に正直に書く

都合の悪いデータであっても省かない。実験条件や手続きに問題があっても省かない。

事実と、解釈や意見をきちんと区別する。

客観的に確認できる事柄なのか(事実)、それができず、他の人が同意する場合もあるし、しない場合もあるのか(解釈・意見)。

文献や本を参照する場合にも、それが文献に記載されていることなのか、それを自分で解釈したり、それに対する自分の意見を述べているのかが、読み手にわかるようにきちんと区別する。また、本や論文から引用し、それをあたかも自分の意見や考えであるかのように書かないこと。

文献や本から引用したり、書かれていることを説明した場合には、

「…ということは、先行研究により示されている(Goryo & Kikuchi, 1971)。」
などと、引用先を明記すること。

「…ということは一般に知られている。」といった引用先を明記しない記述は避けること。


12/12/98 E. Kimura
December 18, 2002 Modified by J. Yanagi
February 7, 2012 Modified by J. Yanagi