線分を提示する直前に線分のどちらかの端に近い位置に先行刺激(cue)を提示すると,線分がそちら側から描かれたように見える(Figure
1.線の下のドットは注視点.mpeg形式のデモンストレーションファイル.実際には線が一瞬ですべて描かれていることはmpegファイルをコマ送りして確かめることができる).これを線運動錯視(illusory
line motion)と呼ぶ.線分の描かれ方において見える時間順序は物理的なものではなく,観察者であるあなたの体験において生じているのである.
この錯視は,先行刺激の提示によってその付近の視覚処理が速められる(知覚の時間が速められる)ことに基づくと考えられている.すなわち,先行刺激の提示がなければ線分刺激の各部位の情報は同時に処理されるが,先行刺激が提示された場合でも,実際に一方の端点から線分が描かれた場合と同様に,線分の一方の端点の情報が脳内の運動検出器(motion
detector)に速く到達するために線運動錯視が生じると考えられている.
この錯視の成立にとって,用いるのは直線である必要はない.この錯視を利用することによって2枚だけの絵で様々な動画表現が可能である(mpeg形式のデモンストレーションファイル1,デモンストレーションファイル2).